佐賀県は教育ICTの先進地域ですが、その中でも佐賀県立致遠館高等学校では、全国に先駆けて2012年から「1人1台PC環境」下での教育を開始。当初はトラブルが多く、授業でのICT機器活用の頻度も低かったものの、現在ではICTは同校にとって必要不可欠の存在になっており、さらに、授業進度や合格実績が向上しているそうです。
致遠館高等学校では、どのようにICTが浸透していき、どのような効果があったのでしょうか。前編では数学科・進路指導副主任の池田先生に導入時のお話をうかがいましたが、後編では数学科・進路指導主事の山﨑先生にも加わっていただき、ICTの浸透と効果についてお話を伺いました。
前編:「まず使ってみる」―その一歩からすべてが始まる(佐賀県立致遠館高等学校・前編)
ICTを本格的に活用するまでに、約5年かかった
―学校全体ではどのようにICT活用がひろがっていったのでしょうか?
池田先生:本校で最初に導入したのは、教育プラットフォーム(Classi)でした。先生たちを対象とした校内研修会を開催し、機能や利用シーンなどを学んだのですが、機能が豊富なこともあって、先生たちはいつ、どのように使えばよいのかを迷うこともありました。
そこで、2~3年目からは使う機能を絞るようにしました。例えば、「まずは、○○機能を使って学習記録をつけましょう」というように、進路指導室のほうで利用する機能とシーンを先生たちに示すようにしたのです。その結果、先生たちもその機能を使う場面がわかり、徐々に使いこなせるようになりました。以後、毎年異なる機能とシーンを提案し、解答ノートの配信や、学習動画の配信など、徐々にできることが増えていきました。
―本格的にICTを活用できるようになるまでにはどのくらいかかりましたか?
池田先生:結局4〜5年ほどかかりました。もっと早い段階から使いこなせていてもよかったはずですが、先生たちにツールの機能と利用シーンを紹介しても、「今のスタイルでできているので、このままで十分だ」と言われてしまい、使ってもらえない場合も結構あったのです。そこで、ICT導入に熱心な先生がどのように使っているかを見てもらい、そのメリットなども一緒に説明するようにしました。そうすることで、他の先生たちも「じゃあ、やってみようか」と使い始めてくれました。やはり誰かが最初の一歩を踏み出して、「やってみる」というのが、非常に大事だなと思いますね。
―「本格的に使えるようになるまで4〜5年かかった」ということでしたが、貴校のICT活用は、いまどういう段階なのでしょうか? 先生方が使うシーンを増やしている段階ですか、それとも、先生方が自分の指導方法に合わせたアレンジを進めているという段階なのでしょうか?
池田先生: まだアレンジまでは進んでおらず、先生たちが、自信を持って使えるツールや使うシーンを増やしているところだと思います。学校全体としてICTを活用するシーンが少しずつ増えてきて、いろんなことができるようになってきたという感覚です。
―最近は、前任校でICTを活用されていた先生が赴任してくることも増えたのではありませんか?
池田先生: いまは全県下にICT活用が広まってきたので、そういう先生が来られて、活用の仕方を教え合う機会も増えました。逆に、本校から他校に移った先生が、異動先の学校で本校のやり方を広めていくこともあると思います。そういう情報交換が増えていくと、県全体でもっと盛り上がっていくのではないかなと思います。
授業進度も合格実績も大幅に向上
―ICTを活用するようになってよかったことはなんですか?
池田先生:まず、時間の使い方が大きく変わりましたね。ICTを活用することで作業の時間が減って、仕事ができる時間が増えました。特に私は、受験対策でいろいろな大学の入試問題を解くようにしているのですが、その時間を多く取れるようになりました。
あと、私が配信する解答ノートを使うことで、他の先生たちの負担が減っているようです。私は自分の受け持っているクラスの生徒たちに向けて、Classiで解答ノートを公開しているのですが、誰が見ているのかを確認すると、ほかのクラスの生徒たちが結構見ていますね。
山﨑先生: 電子化すると、データの共有と蓄積は本当にしやすいですよね。私は自分のクラスの生徒たちに、池田先生の解答を後で見ておくように言っています(笑)。とても丁寧でわかりやすいですからね。生徒たちも後で解答が配信されることがわかっているので、授業中に板書を丁寧に写すことはしないですね。先生がどうやって問題を解いているのか、その思考を追っていくことに時間をかけているという印象です。
―ICTの活用で合格実績も上がっているのでしょうか?
山﨑先生:合格実績は確かに伸びています(※)。1つの要因は、ICTの活用で時間が生まれ、進路指導のための面談に十分な時間をかけられるようになったことです。さらに、その面談の際、学習時間の記録などICTで得られたデータがあることによって、アドバイスの質が高くなっていると思います。
そして、もっと大きい要因は、授業進度が速くなり、教科書を早く終えられるようになったので、受験準備の演習時間が増えたことです。本校では、解答ノートを電子黒板に映すだけでなく、デジタル教科書やリブリーも授業で活用しているので、板書の量は格段に減っており、授業進度がICT導入以前に比べ、約50%上がった教科もあります。授業進度が速くなると、生徒たちに知識が定着しないことが危惧されるのですが、こまめに確認テストを実施したり、リブリーのレコメンド機能を使った自己設定課題で生徒たち一人ひとりの学力に合わせた問題を解かせるなどして、確実に知識を定着させるようにしています。
ICTの活用によって、授業を速く進めるだけでなく、生徒一人ひとりに合った教科指導ができるようになったことが、合格実績の向上につながっているのかなと思います。
※佐賀県立致遠館高等学校の合格実績(1学年定員:240名)
- 国公立大学全体:H28年度127名→H31年度154名(21%向上)
- 九州大学:H28年度4名→H31年度17名(325%向上)
―最後に、いまICT活用で悩まれている先生に向けて、ひとことありますか?
池田先生:まずは使ってみることが大事です。私たちも使う前に抱いていたICT活用に対する印象と、使ってみた印象は大きく違いました。できるところから少しずつ活用を進め、自身の指導スタイルに合わせて、やりやすい使い方を見つけていってもらえればと思います。
ていねいに時間をかけながら、全校にICT活用を浸透させ、目覚ましい成果をあげている佐賀県立致遠館高等学校。今後、公立高等学校でのICT活用を検討されている方々にとって効果的な活用のヒントになるのではないでしょうか。ICT活用のフロントランナーとして、今後とも注目したいと思います。
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