「まず使ってみる」―その一歩からすべてが始まる(佐賀県立致遠館高等学校・前編)

佐賀県は教育ICTの先進地域ですが、その中でも佐賀県立致遠館高等学校では、全国に先駆けて2012年から「1人1台PC環境」下での教育を開始。当初はトラブルが多く、授業でのICT機器活用の頻度も低かったものの、現在ではICTは同校にとって必要不可欠の存在になっており、さらに、授業進度や合格実績が向上しているそうです。

致遠館高等学校では、どのようにICTが浸透していき、どのような効果があったのでしょうか。数学科・進路指導副主任の池田先生に導入当初のお話を伺いました。

正直なところ、最初はICTを敬遠していた

―貴校では、全国に先駆けて電子黒板やタブレットの整備が行われました。最初のころ、先生方はICTに対してどのような印象をお持ちだったのでしょうか。

池田先生:私が本校に赴任したのは2013年ですが、正直なところ、最初はICT機器を敬遠していて、授業ではほとんど使いませんでした。使ったとしても、簡単なスライドを用意して授業で見せるくらいで、どちらかというとネガティブな印象を持っていましたね。

―貴校は実証協力校ということで、当時はICT活用に対して周りからの期待も大きかったのではないですか。

池田先生:そうですね。「電子黒板やタブレットを使って当たり前だろう」という学校外からのプレッシャーは感じていました。私が赴任したころは佐賀県の全ての高校に電子黒板やタブレットが導入されているわけではなかったので、ICTを使った公開授業はだいたい本校で開催されていました。私もそういう公開授業を担当する機会がありましたが、どうやってICTを使うかを考えるのが、当時はとても苦痛でしたね。機器自体に対する抵抗感や、「もし授業中に電子黒板が止まったらどうしよう」という不安もあり、「ICTを使わずに黒板で授業したほうが早い」と思っていました。

まずは使ってみることが大事

当初はICTに対して抵抗感のあった池田先生が、積極的にICTを使い始めるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

池田先生:きっかけは、昨年度から進路指導室で副主任として仕事をするようになったことですね。本校では、進路指導室がICT利用の旗振り役となっていて、先生方全員に「ICTを積極的に使ってください」とお願いをしています。そういう中で副主任の自分が使わないわけにはいかないので、頑張ろうと思ったのです。

―最初はどういうことから始められたのですか?

池田先生:ちょうどその年に、ICTを積極的に活用している先生と一緒に2年生を担当することになり、その先生が前年度にこの学年の生徒たちにATLS(現:リブリー)で自己設定課題をやらせていたので、自分もそのやり方に合わせるところから始めました。

自分の授業でICTをどう使うかはいろいろ考えたのですが、解答ノートの配信から始めました。私は授業の準備をするとき、どんな問題でも必ず自分でちゃんと解いて、解答ノートをつくっています。そのノートを、定期的に生徒に配信するようにしたのです。そのうちに、解答ノートを電子黒板に映して授業でも使うようになりました。

池田先生が実際に配信しているノート
実際に池田先生が配信されているノート

もちろん、初めて解く問題は板書が必要ですが、前にやった問題の続きを説明するときに、また一から板書し直すのは結構時間かかります。その点、電子黒板に解答を映して「ここまではやったよね」といえば、スムーズに授業を進められますからね。

試行錯誤するなかで、こういった使い方のポイントが掴めてきたので、やはりICTは使うべきだし、使わない手はなかったなと思っています。「ICTを使っていたら、過去に自分が受け持っていた学年にも、もっといい教科指導ができていたかもしれない」という後悔も少しあります。とにかく使い始めることがものすごく大事だと思いますね。

不安がないとは言えないが、割り切れるようになった

―ICTを活用し始めてから、生徒たちの反応はどうだったのでしょうか?

池田先生:最初のうちは私自身が授業のペースをうまく掴めず、早く進んでしまうこともあり、そういうときは生徒たちも戸惑っている印象がありました。そこで、ICT一辺倒ではなく、生徒たちが考える時間や、生徒たちどうしで話す時間を設けるようにしました。その結果、生徒たちの授業中の思考が積極的になったと感じています。

―先生がICTを活用した教科指導をされるようになってから1年以上経ったわけですが、過去に感じていたICTに対する不安は払拭されましたか?それとも、まだ不安は残っていますか?

池田先生:正直、機器の動作不具合への不安はまだあります。けれど、もし電子黒板が使えなくなったら、今までどおり黒板で授業すればいいんだと割り切れるようにはなってきました。生徒たちも、「今は映らないけれど、後で配信をしておくから見ておきなさい」と指示しておけば、ちゃんと後で見てくれます。ICT支援員の方もいらっしゃるので、何かあったら、頼れますし。そういうことが十分わかってきたので、今は落ち着いて授業することができています。繰り返しになりますが、「最初の一歩」が本当にものすごく大事なんだなと思いますね。


「とにかく使い始めることが大事」と熱く語ってくださった池田先生。後編では、どのようにして学校全体でICTを活用するようになっていたのか、また授業進度と合格実績の向上をどのように両立させていったのか、詳しくお話しいただきます。

後編:授業進度と合格実績―ICTが両方の向上につながった(佐賀県立致遠館高等学校・後編)